「縁結びの神様」と聞いて、まっ先に思い浮かぶのは出雲大社(いずもおおやしろ)。その奥におわすのが、大国主神(おおくにぬしのかみ)です。やさしくて、ちょっぴり情けなくて、でも何度倒れても立ち上がる。ウサギを助け、たくさんの試練を乗り越え、最後には日本中の縁を結ぶ神様になりました。実はこの神様、別名がやたら多いことでも有名。今日は、そんな大国主神のドラマチックな人生を、ロマンチックにたどってみましょう。読み終わるころには、きっとあなたも出雲へ行きたくなります。
名前の意味とルーツ
「大国主」と書いて、おおくにぬし。文字どおり「大いなる国の主(あるじ)」という意味です。『古事記』では、荒ぶる神・須佐之男命(すさのおのみこと)の六世の孫として登場します。一説には須佐之男命の息子とも伝えられていて、いずれにしても「スサノオの血を引く神様」という位置づけです。
そして、この神様のいちばんの特徴は「別名がとにかく多い」こと。
- 大穴牟遅神(おおなむちのかみ):若いころの名前。
- 葦原色許男神(あしはらしこおのかみ):勇ましい男、の意。
- 八千矛神(やちほこのかみ):恋多き神としての顔。
- 宇都志国玉神(うつしくにたまのかみ):現し国(うつしくに)の魂。
- 大物主神(おおものぬしのかみ):奈良・大神(おおみわ)神社の御祭神(『日本書紀』では同一神とされます)。
- 大己貴神(おおなむちのかみ):氷川神社など各地で呼ばれる名。
名前が変わるたびに、神様の人生のステージも変わっていく。まるで人生そのものを映す鏡みたいです。

誕生秘話
若き日の大国主神は、まだ「大穴牟遅神(おおなむちのかみ)」と呼ばれていました。彼にはたくさんの兄たち、八十神(やそがみ)がいて、いつも一番下っ端としてこき使われていたのです。
ある日、八十神たちは因幡国(いなばのくに)の美しい姫・八上比売(やがみひめ)に求婚しようと旅に出ます。大穴牟遅は荷物持ちとして、最後尾をとぼとぼ。すると道の途中で、皮をむかれて泣いている白いウサギに出会いました。
有名な「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」の物語です。意地悪な兄たちは「海水で洗えば治る」と嘘を教え、ウサギはさらに苦しむことに。あとから来た大穴牟遅は、「真水で体を洗い、蒲(がま)の穂にくるまりなさい」と優しく教えました。回復したウサギは、こう予言します。「八上比売と結ばれるのは、あなたですよ」と。
予言は的中。けれど、それを知った八十神は激怒します。大穴牟遅は二度も命を奪われ、二度も母の願いで蘇生するという、壮絶な目に遭いました。二度目に彼を救ったのが、神産巣日神(かみむすひのかみ)。𧏛貝比売(きさがいひめ)と蛤貝比売(うむがいひめ)という二柱の女神を遣わし、母の乳に薬を混ぜて塗ることで、大穴牟遅は生き返ったと伝えられています。
その後、命を狙う八十神から逃げるために、彼は祖先・須佐之男命のいる根の堅州国(ねのかたすくに)へ。そこで出会ったのが、スサノオの娘・須勢理毘売(すせりびめ)でした。一目見て恋に落ちる二人。けれど、父であるスサノオは、簡単には認めません。
蛇の部屋に寝かされたり、ムカデと蜂の部屋に閉じ込められたり、燃え盛る野原に放り出されたり。次々と襲いかかる試練を、大穴牟遅は須勢理毘売の知恵と道具に助けられながら、ひとつひとつ乗り越えていきます。ついにスサノオは、彼にこう告げました。「お前は今日から大国主神と名乗れ。そして、宇都志国玉神(うつしくにたまのかみ)として国を治めよ」と。
こうして「大穴牟遅」は、ついに「大国主神」へと生まれ変わったのです。
意外な逸話・特徴
名前を授かった大国主神は、いよいよ「国造り(くにづくり)」に取りかかります。葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ばれる地上の世界を、豊かな国にするための、壮大なプロジェクト。けれど、ひとりではどうにもなりません。
そんなとき、海の向こうから、小さな小さな神様が、ガガイモのさやの舟に乗ってやってきました。それが少彦名神(すくなびこなのかみ)。神産巣日神の子で、知恵と医薬の神。大国主神とこの小さな相棒は、まさに名コンビ。農業、漁業、薬の知識を人々に伝え、川を引き、田畑を整え、国をぐんぐん豊かにしていきます。
ところが、ある日。少彦名神は突然、常世国(とこよのくに)へと去ってしまいます。大切な相棒を失い、途方に暮れる大国主神。すると今度は、海を光らせながら大物主神が現れ、「私を大和の三輪山に祀れば、国造りを助けよう」と告げます。こうして奈良の三輪山に祀られたのが、大神神社(おおみわじんじゃ)のはじまり。古事記では別の神とも、日本書紀では大国主神の「幸魂(さきみたま)・奇魂(くしみたま)」とも語られる、神秘の神様です。
こうして「豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」と呼ばれる、ゆたかな国がついに完成しました。けれど物語は、ここで終わりません。
高天原(たかまがはら)から、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の使者がやってきて、こう告げるのです。「この国を、私の子孫に譲ってほしい」と。これが、有名な「国譲り(くにゆずり)」神話。
大国主神は、自分が築き上げた国を、争うことなく、静かに天つ神(あまつかみ)に譲ります。ただし、ひとつだけ条件を出しました。「私のために、天にも届くほど高い、立派な宮殿を建ててください」。そうして造られたのが、出雲大社の前身、天日隅宮(あめのひすみのみや)と伝えられています。
そして、天照大御神は大国主神にこう約束したのです。「目に見える世界(顕世・うつしよ)は、私の子孫が治める。けれど、目に見えない世界(幽世・かくりよ)は、あなたが司ってください」と。「むすび」の御霊力(みたまのちから)で、人と人との見えないご縁を結ぶ役目。──こうして大国主神は、縁結びの神様になりました。
毎年、旧暦の十月。全国の神社から神様がいなくなる「神無月(かんなづき)」ですが、出雲だけは「神在月(かみありづき)」と呼ばれます。八百万の神々が出雲に集まり、人と人との縁を相談する会議が開かれる、というのです。なんともロマンチックな話ですよね。
祀られている神社
大国主神は、別名が多いぶん、祀られている神社も全国にたくさんあります。代表的な四社をご紹介します。
出雲大社(いずもおおやしろ)/島根県出雲市
大国主大神を主祭神とする、縁結びの総本山。古くは「天日隅宮(あめのひすみのみや)」と呼ばれ、平安時代の文献では当時の日本一の高層建築だったとも伝えられます。参拝は「二礼四拍手一礼」が作法。普通の神社(二礼二拍手一礼)と違うので、ぜひ覚えていってください。
公式サイト:https://izumooyashiro.or.jp/
大神神社(おおみわじんじゃ)/奈良県桜井市
三輪山(みわやま)そのものをご神体とする、日本最古級の神社。御祭神は大物主大神で、出雲の大国主神と同一神と伝えられています。大和国一宮(やまとのくにいちのみや)として、古代から人々の信仰を集めてきました。
公式サイト:https://oomiwa.or.jp/
武蔵一宮 氷川神社(ひかわじんじゃ)/埼玉県さいたま市
大宮(おおみや)という地名のもとになった、関東屈指の古社。御祭神は須佐之男命・稲田姫命(いなだひめのみこと)・大己貴命(おおなむちのみこと)の三柱。大己貴命は、大国主神の若き日の名前。スサノオ一家がそろって祀られる、ファミリー神社でもあります。
公式サイト:https://musashiichinomiya-hikawa.or.jp/
地主神社(じしゅじんじゃ)/京都府京都市
清水寺のすぐ隣、世界文化遺産にも登録される縁結びの社。主祭神は大国主命で、その父母神もあわせて祀られています。境内の「恋占いの石」が有名。現在は社殿修復工事のため拝観休止中(2022年8月から数年間)ですが、祈願やお守りは郵送で授与してくれます。
公式サイト:https://www.jishujinja.or.jp/
関連記事
- 須佐之男命(すさのおのみこと)──大国主神の祖先であり、根の堅州国で試練を与えた神様。
- 少彦名神(すくなびこなのかみ)──国造りの相棒。小さな体に大きな知恵を持つ、医薬の神。
- 因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)──大国主神の優しさを象徴する、はじまりの物語。
- 神産巣日神(かみむすひのかみ)──大穴牟遅を蘇らせた、いのちの「むすび」の神。
関連神社|大国主神と一緒に祀られる神社
大国主神は出雲を中心に全国でお祀りされ、縁結びの神様として親しまれています。主祭神として祀る神社、一緒に祀られる関連神社、そして静岡県内のゆかりの神社を整理しました。
主祭神として祀る神社
- 出雲大社(島根県出雲市)|大国主大神を主祭神とする、縁結びの総本山。参拝は二礼四拍手一礼。公式サイト
- 大神神社(奈良県桜井市)|大物主大神(大国主神の和魂)を主祭神とし、三輪山そのものをご神体とする日本最古級の神社。公式サイト
- 気多大社(石川県羽咋市)|大己貴命(大国主の別名)を主祭神とし、縁結びの神として北陸で篤く信仰されています。
一緒に祀られる関連神社
- 神田明神(東京都千代田区)|一ノ宮に大己貴命(大国主)、二ノ宮に少彦名命、三ノ宮に平将門命を祀る江戸総鎮守。大国主と少彦名は国造りのパートナーです。公式サイト
- 地主神社(京都府京都市)|清水寺境内に鎮座し、大国主命を主祭神に縁結びで全国的に有名。※2022年から本殿修復のため閉門中。
- 武蔵一宮 氷川神社(埼玉県さいたま市)|須佐之男命・稲田姫命とともに、大己貴命(大国主)を祀る三柱の総合神社。
全国の関連神社(地域別)
大国主神を主祭神/合祀する代表的な神社を地域別にご紹介します。
関東:神田明神(東京都千代田区・大己貴命主祭神)、二宮神社(神奈川県・武蔵国二宮)
中部:気多大社(石川県羽咋市・能登国一宮)、三嶋大社(静岡県三島市・大山祇命と並祭)、大縣神社(愛知県犬山市)
近畿:地主神社(京都市東山区・縁結びの聖地)、大神神社(奈良県桜井市・大物主=大国主の和魂)
中国・四国:出雲大社(島根県出雲市・全国大国主神社の総本宮)、美保神社(島根県松江市・大国主の御子神事代主主祭神)、金刀比羅宮(香川県・大物主祀る)
九州:宇佐神宮(大分県・大国主合祀あり)
まとめ
大穴牟遅、葦原色許男、八千矛、宇都志国玉、大物主、大己貴──。いっぱい名前を持つ、縁結びの神様。それが大国主神です。
ウサギを助け、兄たちにいじめられ、二度も命を落とし、それでも立ち上がる。試練を乗り越え、国を造り、最後にはすべてを譲って、目に見えない「ご縁」を司る神様になった。──そんな人生を歩んだからこそ、私たちの恋や仕事や、人と人とのつながりを、そっと結んでくれるのかもしれません。
もし出雲を訪れる機会があったら、ぜひ手を合わせてみてください。たくさんの名前と、たくさんの物語を抱えた、優しい神様が、あなたの「むすび」を待っています。
参考
- 出雲大社「出雲大社と大国主大神」https://izumooyashiro.or.jp/about/ookami
- 神社本庁「神話 国譲り」https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinwa/story6/
- 國學院大學「イナバノシロウサギの神話とは?──大国主神の最初の物語」https://www.kokugakuin.ac.jp/article/96736
- 國學院大學「スサノヲからオオクニヌシへ 試練と継承の『国作り』」https://www.kokugakuin.ac.jp/article/309492
- 大神神社「ご由緒」https://oomiwa.or.jp/jinja/goyuisho/
- 武蔵一宮 氷川神社「由緒・歴史」https://musashiichinomiya-hikawa.or.jp/about/
- 京都地主神社「神様とご利益」https://www.jishujinja.or.jp/kamisama/
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