須佐之男命|乱暴者にしてヒーロー、最も人間臭い神様

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日本神話の神様の中で、最も「人間臭い」のは誰か。答えはおそらく一人しかいない。須佐之男命(スサノオノミコト)である。生まれて早々に「母に会いたい」と泣き叫び、姉の田畑をめちゃくちゃに荒らし、ついには高天原(たかまがはら)を追放される――。神話界一の問題児にして、ヤマタノオロチを退治した英雄。乱暴者なのに、女を守るために剣を抜く。泣き虫なのに、八岐大蛇を斬り伏せる。この振れ幅の大きさこそが、スサノオが千年以上にわたり日本人に愛され続けてきた最大の理由だ。今回は、神様界きっての「困った弟」が、いかにしてヒーローになったのか――その波乱万丈すぎる生涯を追いかける。

名前の意味とルーツ

「須佐之男命(すさのおのみこと)」という名前。一説には「すさぶる男」、つまり「荒々しく振る舞う男」という意味だとされる。別表記では「素戔嗚尊」「建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)」とも書かれ、「建速(たけはや)」は「猛々しく速い」を意味する。名前からして、すでに穏やかではない。

その出自はさらに強烈だ。父は国生みの神イザナギ、母はイザナミ。そして誕生のきっかけは――父イザナギが黄泉の国(よみのくに)から逃げ帰り、川で禊(みそぎ)をした際に、その「鼻」を洗ったときに生まれたのがスサノオである。

同じ禊で、左目から天照大御神(アマテラスオオミカミ)、右目から月読命(ツクヨミノミコト)が生まれた。この三柱は「三貴子(みはしらのうずのみこ)」と呼ばれ、八百万の神々の中でも別格の存在として扱われる。スサノオはその三貴子の末弟。生まれた瞬間から、姉アマテラスと並ぶ「神様界のトップオブトップ」だったわけだ。

嵐の空と剣を構える古代の戦士

誕生秘話

イザナギは三貴子の誕生を大層喜び、それぞれに「持ち場」を分け与えた。アマテラスには高天原(天の世界)。ツクヨミには夜の世界。そしてスサノオには「海原(うなばら)」――広大な海の支配を任せたのである。

ところが、ここで事件が起きる。スサノオは与えられた海原を治めようとせず、ただひたすら泣き叫び続けた。その理由は――「母(イザナミ)のいる根の国に行きたい」というものだった。

泣き方が尋常ではない。あごひげが胸まで伸びるほど泣き続け、その涙のあまり、青々とした山は枯れ果て、海も川も干上がってしまったという。神話とはいえスケールが違う。当然、悪い神々もここぞとばかりに騒ぎ出し、世界は災いに満ちた。

これにブチギレたのが父・イザナギだ。「ならばお前は、この国に住むな!」――こうしてスサノオは、生まれて間もなく追放処分を言い渡される。神様界きっての問題児の人生は、すでにここから波乱含みだった。

意外な逸話・特徴

スサノオの逸話は、一冊の本になるほど多い。だが、特に有名なものを並べるだけでも、その振れ幅に驚かされる。

【高天原での大暴れ】追放されたスサノオは、母のもとに行く前に「姉アマテラスにお別れを言いたい」と高天原を訪ねる。だが弟の到来を警戒した姉は、武装して迎え撃つ。そこで二人は誓約(うけい)と呼ばれる占いを行い、スサノオの「邪心なし」が証明された――はずだった。ところがスサノオは勝利の喜びで増長し、姉の田の畔(あぜ)を壊し、御殿に糞をまき散らし、ついには機織り小屋に皮を剥いだ馬を投げ込むという暴挙に及ぶ。これに驚いた機織女が梭(ひ)で身を傷つけて亡くなり、世界の秩序は崩壊した。

【天岩戸の原因】弟の蛮行に絶望したアマテラスは、天岩戸(あまのいわと)に閉じこもってしまう。太陽神が隠れたことで世界は真っ暗闇に。神々が大騒ぎをしてアマテラスを引き出すまで、世界は闇に包まれた――そう、あの有名な天岩戸神話の「原因」を作ったのは、ほかでもないスサノオなのである。

当然、スサノオは罰を受ける。ひげを剃られ、手足の爪を抜かれ、そして高天原を永久追放される。神話界きっての「兄弟げんか」は、こうして弟の完敗で幕を閉じた。

【出雲降臨とヤマタノオロチ退治】追放されたスサノオが降り立ったのは、出雲国(いずものくに)の肥河(ひのかわ/現在の斐伊川)の上流。そこで彼は、川を流れてくる箸を見つけ「人が住んでいるのでは」と上流をたどり、泣いている老夫婦と娘に出会う。

老夫婦はアシナヅチテナヅチ、娘の名はクシナダヒメ。「私たちには8人の娘がおりましたが、毎年ヤマタノオロチに食われ、最後の一人のクシナダヒメも今年食われるのです」――そう涙ながらに語る老夫婦に、スサノオはこう言い放つ。「その娘を私にくれ。私がオロチを退治しよう」。一目惚れである。神様もやることは人間と変わらない。

スサノオは、クシナダヒメを櫛(くし)に変えて自分の髪に挿し、家の周りに垣根を巡らせて8つの門を作らせ、各門に強い酒「八塩折之酒(やしおりのさけ)」を満たした桶を置かせる。やがて現れた頭が8つ、尾が8つの大蛇・ヤマタノオロチは、酒の匂いに誘われて8つの頭をそれぞれの桶に突っ込み、酔いつぶれる。スサノオはそこを十拳剣(とつかのつるぎ)で一気に斬り伏せたのだ。

【草薙剣の発見】オロチを斬り終えたあと、スサノオがその尾を切り裂くと――中から一振りの剣が出てきた。これが、のちに三種の神器の一つ「草薙剣(くさなぎのつるぎ/天叢雲剣)」となる聖なる剣である。スサノオはこの剣を、和解の証として姉アマテラスに献上した。問題児が、ついに姉孝行を果たした瞬間でもある。

【大国主神の祖】その後、スサノオはクシナダヒメと結ばれ、出雲に宮を建てて暮らした。このとき詠んだとされる「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」は、日本最古の和歌といわれる。乱暴者にして詩人。スサノオの多面性はとどまるところを知らない。そして、彼の子孫として生まれたのが、出雲大社の主祭神大国主神(オオクニヌシノカミ)。スサノオは「縁結びの神」の祖でもあるのだ。

祀られている神社

スサノオを祀る神社は全国に数多く存在する。「厄除け・疫病退散」「縁結び」「農業・治水」など、ご利益も多彩だ。特に有名な4社を紹介する。

八坂神社(京都府京都市)

祇園の街にどっしり構える、全国祇園信仰の総本社。主祭神は素戔嗚尊で、かつては牛頭天王(ごずてんのう)と称された。日本三大祭の一つ「祇園祭」は、約1150年前の平安時代、疫病退散を祈って始まったこの神社の祭礼。7月の1か月間続く山鉾巡行は世界的にも有名で、海外からも観光客が押し寄せる。

  • 所在地:京都府京都市東山区祇園町北側625
  • ご利益:疫病退散、厄除け、商売繁盛、縁結び
  • 公式https://www.yasaka-jinja.or.jp/

武蔵一宮 氷川神社(埼玉県さいたま市)

「大宮」という地名の由来となった、関東を代表する古社。2400年以上の歴史を持つといわれ、武蔵国の一宮(最高位)として崇敬を集めてきた。主祭神は須佐之男命・稲田姫命(クシナダヒメ)・大己貴命(オオナムチ/大国主神)の三柱。スサノオ夫妻と、その子孫が揃って祀られる、いわば「ファミリー神社」だ。

須佐神社(島根県出雲市)

『出雲国風土記』に「この国は小さい国であるがよい処である」とスサノオ自らが言葉を残し、自分の御魂を鎮めたとされる神社。文字通り、スサノオの「魂の本宮」だ。境内には樹齢1300年といわれる御神木「大杉さん」がそびえ、神々しい雰囲気に包まれている。出雲に旅したら必ず立ち寄りたい一社。

  • 所在地:島根県出雲市佐田町須佐730
  • ご利益:心願成就、厄除け、家内安全
  • 公式https://www.susa-jinja.jp/

津島神社(愛知県津島市)

京都の八坂神社と並ぶ「天王社」の総本社。全国3000以上ある津島神社の本社であり、「全国天王総本社」を名乗る。鎮座は欽明天皇元年(540年)、1480年を超える歴史を誇る。豊臣秀吉や徳川家康ら名だたる武将に篤く信仰され、楼門は秀吉、本殿は家康の四男・松平忠吉の寄進と伝えられる。

関連記事

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関連神社|須佐之男命を祀る・一緒に祀られる神社

主祭神として祀る神社

本記事「祀られている神社」セクションで詳しく紹介した八坂神社・氷川神社・須佐神社・津島神社に加えて、以下の神社もスサノオを主祭神とする代表的な聖地です。

◆ 須佐神社(島根県出雲市)
『出雲国風土記』に記されたスサノオ自身が御魂を鎮めたと伝わる「魂の本宮」。境内には樹齢1300年の御神木「大杉さん」がそびえる。公式:https://www.susa-jinja.jp/

◆ 八坂神社(京都府京都市)
全国祇園信仰の総本社。日本三大祭の一つ祇園祭を主催する。公式:https://www.yasaka-jinja.or.jp/

◆ 津島神社(愛知県津島市)
全国3000以上ある津島神社・天王社の総本社。「全国天王総本社」を名乗る古社。公式:https://tsushimajinja.or.jp/

一緒に祀られる関連神社(夫婦・親子・三貴子系)

◆ 武蔵一宮 氷川神社/埼玉県さいたま市
須佐之男命・稲田姫命(クシナダヒメ)・大己貴命(オオナムチ/大国主神)の三柱を祀る、スサノオ夫妻と子孫が揃う「ファミリー神社」。スサノオの愛と血脈をまるごと感じられる関東随一の古社です。公式:https://www.musashiichinomiya-hikawa.or.jp/

◆ 伊弉諾神宮/兵庫県淡路市
スサノオを生んだ父神伊邪那岐命と妻神伊邪那美命を祀る、日本最古とされる神社。三貴子(アマテラス・ツクヨミ・スサノオ)誕生の原点に立ち会える聖地です。

◆ 八坂神社(京都府京都市)では、本殿に主祭神スサノオとともに妻櫛稲田姫命、御子神八柱御子神がまとめて祀られています。八坂と氷川は、いずれもスサノオの「家族そろっての聖地」です。

全国の関連神社(地域別)

須佐之男命(スサノオ)を主祭神、または合祀する代表的な神社を地域別にご紹介します。全国の八坂神社・津島神社・氷川神社・須賀神社系の総本社・名社をピックアップしました。

■ 関東武蔵一宮 氷川神社(埼玉県さいたま市大宮区)――須佐之男命・稲田姫命・大己貴命の三柱を主祭神とする武蔵国一宮。約2,000年前の創建と伝わり、全国の氷川神社の総本社にあたります。公式:http://musashiichinomiya-hikawa.or.jp/

■ 中部津島神社(愛知県津島市)――建速須佐之男命を主祭神とする、全国の津島神社・天王社の総本社で、京都の八坂神社と並ぶ「全国天王総本社」として知られます。
静岡県内では、細江神社(静岡県浜松市浜名区細江町気賀996)が建速素盞嗚尊・奇稲田姫尊を主祭神とし、「気賀のお天王さま」「地震除けの神」として崇敬される遠州を代表するスサノオ系神社。参考:ハローナビしずおか「細江神社」
また天王宮 大歳神社(静岡県浜松市中央区天王町)も素戔嗚尊を主祭神とする延喜式内社の古社です。公式:https://www.ootoshi-jinja.or.jp/

■ 近畿八坂神社(京都府京都市東山区)――須佐之男命・櫛稲田姫命・八柱御子神を主祭神とする全国約2,300社の八坂神社・祇園社の総本社。京都祇園祭で名高い厄除・疫病除の神。

■ 中国・四国須佐神社(島根県出雲市佐田町須佐)――須佐之男命がみずから魂を鎮めた地と伝わる、スサノオ伝承の中心的聖地。出雲国風土記にも記される古社で、御魂を直接祀る数少ない大社です。公式:https://www.susa-jinja.jp/

■ 九州・沖縄:スサノオは新羅から出雲に降り立ったとの神話があり、九州にも素盞嗚尊系の神社が多数点在。福岡・大分・宮崎などには、祇園社・天王社系の社が地域に根付いて残されています。

全国の関連神社(地域別)

須佐之男命を主祭神/合祀する代表的な神社を地域別にご紹介します。

関東:氷川神社(埼玉県さいたま市・武蔵国一宮、須佐之男主祭神)、八雲神社系

中部:津島神社(愛知県津島市・全国津島神社の総本社)、細江神社(静岡県浜松市・建速素盞嗚尊主祭神)

近畿:八坂神社(京都市東山区・全国祇園社の総本社、須佐之男主祭神)

中国・四国:須佐神社(島根県出雲市・須佐之男終焉の地)、須我神社(島根県雲南市・須佐之男ヤマタノオロチ退治後の宮)

まとめ

須佐之男命――生まれた瞬間に泣き叫び、姉の家を荒らし、世界を闇に落とし、そして一目惚れした娘を守るために大蛇を斬った男。乱暴者にしてヒーロー、泣き虫にして詩人、追放された問題児にして縁結びの神の祖。これほど振れ幅の大きい神様は、世界の神話を見渡してもなかなかいない。

だからこそ、私たち日本人はスサノオに惹かれてやまないのだろう。完璧な神ではなく、怒り、泣き、愛し、戦う「人間臭い神様」――。失敗もする、後悔もする、それでも誰かのために剣を抜く。そんなスサノオの物語は、千年以上経ったいまも、私たちの胸を熱くする。八坂神社の祇園祭で揺れる山鉾の音、氷川神社の参道を渡る風、須佐神社の御神木のざわめき。そのすべての向こうに、今もスサノオは立っている。神様界一の問題児にして、最大のヒーローとして。

参考

🗻 姉妹サイト:しずおかプレス

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