三種の神器|八咫鏡・草薙剣・八尺瓊勾玉、天皇家の宝物の正体

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天皇陛下ですら、目にしてはいけない――。

日本には、誰ひとり見たことがない「秘宝」が存在します。その名は三種(さんしゅ)の神器(じんぎ)。八咫鏡(やたのかがみ)・草薙剣(くさなぎのつるぎ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の三つの宝物です。

天孫降臨(てんそんこうりん)のとき、太陽神アマテラスが孫のニニギに手渡した神聖な宝。それから二千年以上、歴代天皇に受け継がれてきた皇位継承の証です。伊勢神宮、熱田神宮、そして皇居――三か所に分かれて安置されている本物の姿は、神職ですら拝見できません。

謎に包まれた天皇家の宝、その正体に迫ります。

八咫鏡(やたのかがみ)――太陽を映した神鏡

三種の神器、その筆頭が八咫鏡(やたのかがみ)。アマテラスその人を映し出した鏡です。

誕生は天岩戸(あまのいわと)隠れの大事件のとき。アマテラスが岩屋に閉じこもり、世界から光が消えた。困り果てた神々は作戦を立てます。鋳物の神イシコリドメ(石凝姥命)に命じて、急ぎ巨大な鏡を作らせたのです。

「咫(あた)」は古代の長さの単位。八咫=八つ分、つまり相当な大きさ。アマテラスが岩戸を細く開けて外を覗いた瞬間、目の前にきらりと光る鏡。「あれ、私より輝く神がいる?」――興味を引かれて出てきたところを、力持ちの神タヂカラオが引きずり出した、というあのお話です。

現在、八咫鏡は伊勢神宮の内宮(ないくう)に、アマテラスのご神体としてお祀りされています。代々宮中で祀られていましたが、第十代崇神(すじん)天皇の御代に「あまりに畏れ多い」として皇居の外へ。倭姫命(やまとひめのみこと)が安住の地を探して旅をし、最終的に伊勢の地に鎮まりました。

素材は青銅とも、神秘的な金属とも。サイズも形も、ほとんど何もわかっていません。神宮の式年遷宮でも、ご神体を運ぶ姿は白い絹で何重にも覆われ、誰の目にも触れません。

三種の神器
伊勢神宮 内宮(八咫鏡を祀る)/撮影:Oilstreet/Wikimedia Commons・CC BY-SA 3.0

草薙剣(くさなぎのつるぎ)――大蛇の尾から現れた神剣

二つ目は草薙剣(くさなぎのつるぎ)。別名「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」。三種の神器のなかで唯一、武器の姿をした神宝です。

発見場所はなんと大蛇のしっぽの中。アマテラスの弟スサノオが八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治したとき、その尾を裂いた中から出てきたのが、この剣でした。剣の上にいつも雲がたなびいていたことから、最初は「天叢雲剣」と呼ばれました。

スサノオはこの剣を姉アマテラスに献上。やがて天孫降臨のとき、ニニギに託されて地上へ。そして時は流れ、英雄ヤマトタケル(日本武尊)の物語へとつながります。

東国征伐に向かうヤマトタケル。叔母である倭姫命が伊勢神宮からこの剣を授け、「困ったら開けなさい」と袋も持たせました。駿河国(するがのくに、現在の静岡)で敵に火攻めされたヤマトタケルは、咄嗟(とっさ)にこの剣で周囲の草を薙ぎ払い、向かい火を放って難を逃れます。この故事から、剣は「草薙剣」と呼ばれるようになり、その地は「焼津(やいづ)」と名づけられました。

現在、本体は名古屋の熱田(あつた)神宮に。ヤマトタケルの妃ミヤズヒメが熱田の地で剣をお祀りしたのが、神宮の始まりとされます。皇居にあるのは形代(かたしろ=レプリカ)。即位の儀式に使われるのは、この形代のほうです。

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)――皇居に眠る古代の玉

三つ目は八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。月のような曲線を描く古代の宝玉です。

作ったのは玉造りの神玉祖命(たまのおやのみこと)。これも天岩戸隠れのとき、八咫鏡と一緒に榊(さかき)の木に掛けられて、アマテラスを誘い出す道具として用いられました。「八尺(やさか)」は長い首飾りの意味ともいわれ、複数の勾玉が連なる豪華な装身具だった可能性が高いと推測されています。

素材は翡翠(ひすい)と推定されますが、これも実物を見た者がいないため謎のまま。古墳時代の出土品から、当時の勾玉が緑色の翡翠製であったことはわかっており、八尺瓊勾玉も同様の素材だろうと考えられています。

そして驚くべきことに、八尺瓊勾玉は三種の神器のなかで唯一、本物が皇居にあるとされています。皇居の「剣璽(けんじ)の間」、または賢所(かしこどころ)と呼ばれる場所に安置され、天皇即位の「剣璽等承継の儀」で実物が継承されます。鏡も剣も形代しか皇居にはありませんが、玉だけは本体が宮中にあるのです。

天孫降臨――三つの宝が地上に降りた日

三種の神器が一つに揃って人間界へ降りてきたのが、神話の一大イベント「天孫降臨」

アマテラスは孫のニニギ(邇邇芸命)に、葦原中国(あしはらのなかつくに)――つまり地上の支配を託します。そのとき、こう告げました。

「この鏡を、わたしの御魂(みたま)として祀りなさい」

八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉。この三つを手にニニギは九州の高千穂峰(たかちほのみね)に降臨。これが日本の皇統の始まりです。以後、ニニギの曾孫である神武(じんむ)天皇から現代の今上天皇まで、約二千年にわたり同じ三つの宝が継承され続けてきました。

世界中を見ても、一つの王朝がここまで長く続いた例はありません。三種の神器は、その「世界最古の王朝」を支える物的な象徴なのです。

現代まで継承――令和の即位でも使われた

「神話の話でしょ?」と思った方、実はそうではありません。三種の神器は令和の時代にも実際に使われたのです。

2019年5月1日、上皇陛下から今上天皇への代替わりに際して行われた「剣璽等承継の儀」。この儀式で、剣(草薙剣の形代)と璽(八尺瓊勾玉)が新天皇に引き継がれました。テレビ中継もされた歴史的瞬間でしたが、白い布や箱に納められた状態で運ばれるため、視聴者はもちろん、その場にいた閣僚たちも中身を見ることはできません。

なぜ誰も見られないのか――。それは三種の神器が「神そのもの」とされているから。鏡はアマテラスの依代(よりしろ)、玉は皇統の精神、剣は守護の力。神を直接見ることはできない、というのが日本古来の信仰なのです。

歴代天皇のなかにも、好奇心から「ちょっと見てみたい」と箱を開けようとした方がいたという伝承が残ります。しかしいずれも、激しい光や煙に阻まれて見ることができなかった、と。神の威光は、現代でも厳然と守られています。

三器を祀る関連神社

三種の神器それぞれを祀る、由緒ある神社をご紹介します。

  • 伊勢神宮 内宮(皇大神宮)(三重県伊勢市)――八咫鏡を御神体としてアマテラスをお祀り。日本人の総氏神。公式サイト
  • 熱田神宮(愛知県名古屋市)――草薙剣を御神体としてお祀り。境内の「剣の宝庫 草薙館」では刀剣文化を体感できる。公式サイト
  • 皇居(東京都千代田区)――八尺瓊勾玉の本体と、鏡・剣の形代を安置。賢所では宮中祭祀が現在も行われている。
  • 玉祖(たまのおや)神社(山口県防府市)――八尺瓊勾玉を作った玉祖命をお祀りする、玉作り職人の祖神の社。
  • 焼津神社(静岡県焼津市)――ヤマトタケルが草薙剣で危機を脱した伝説の地に鎮座。

三つの意味――知恵・勇気・慈愛

三種の神器は、ただの宝物ではありません。儒学が日本に伝わって以降、それぞれが人間に必要な三つの徳を象徴するという解釈が広まりました。

  • 八咫鏡=知恵(ち)――鏡はありのままを映す。自分を客観視し、真実を見抜く「知」の象徴。
  • 草薙剣=勇気(ゆう)――剣は決断と行動の象徴。困難を断ち切る「勇」の力。
  • 八尺瓊勾玉=慈愛(じん)――丸みを帯びた玉は包み込む優しさを表す。他者を思いやる「仁」の心。

つまり三種の神器とは、「賢く、強く、優しくあれ」という、天皇への――そして日本人への――永遠のメッセージ。神話と道徳が見事に結びついた、世界でも類を見ない宝なのです。

関連神社|三種の神器と一緒に祀られる神社

三種の神器それぞれを御神体・由緒として祀る神社、関連する神々と一緒に祀られる神社、そして静岡県内にある神器ゆかりの神社をご紹介します。

主祭神として祀る神社(神器ゆかり)

  • 伊勢神宮 内宮 皇大神宮(三重県伊勢市)|八咫鏡を御神体としてアマテラスをお祀りする日本人の総氏神。神器の中で最も古くからこの地に鎮座。公式サイト
  • 熱田神宮(愛知県名古屋市)|草薙剣を御神体として祀る尾張国三宮。「剣の宝庫 草薙館」では450余口の刀剣を展示。公式サイト
  • 皇居 宮中三殿(東京都千代田区)|八尺瓊勾玉の本体と、鏡・剣の形代(かたしろ)を安置。賢所では宮中祭祀が現在も継続。

一緒に祀られる関連神社

  • 石上神宮(奈良県天理市)|布都御魂大神を御神体の神剣として祀る、日本最古級の神宮。武器奉納の総本社で、剣の系譜では熱田と双璧。公式サイト
  • 玉祖神社(山口県防府市)|八尺瓊勾玉を作った玉祖命を祀る、玉作部の祖神を祀る古社。勾玉の起源を学べる聖地。
  • 日前神宮・國懸神宮(和歌山県和歌山市)|八咫鏡を鋳造する際の試作鏡「日像鏡・日矛鏡」を御神体とする、紀伊国一宮の特殊な神社。

全国の関連神社(地域別)

三種の神器ゆかりの神社を地域別にご紹介します。

関東:皇居(東京都千代田区・八尺瓊勾玉を奉安)

中部:熱田神宮(愛知県名古屋市・草薙剣を祀る尾張国三宮、神器三宮の一つ)、富士山本宮浅間大社(静岡県)

近畿:伊勢神宮内宮(三重県伊勢市・八咫鏡を祀る神器三宮の総本宮)、石上神宮(奈良県天理市・布都御魂剣ゆかり)

まとめ――見えない宝が紡ぐ二千年

誰も見たことがない。それでも確かに存在する。三種の神器は、日本という国の「目に見えない芯」です。

八咫鏡は太陽の知恵を、草薙剣は英雄の勇気を、八尺瓊勾玉は神々の慈愛を象徴する。神話で生まれ、伊勢・熱田・皇居に分かれて鎮まり、今もなお令和の天皇に受け継がれた、生きた神話。

見えないからこそ、想像が膨らむ。それこそが、二千年以上にわたり日本人の心を惹きつけ続ける、三種の神器の本当の力なのかもしれません。

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  • 天孫降臨――アマテラスの孫が地上に降りた神話
  • 邇邇芸命(ニニギ)――三種の神器を授かった天孫
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  • ヤマタノオロチ――草薙剣を生んだ八つ首の大蛇

参考

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