古事記と日本書紀の違い|似て非なる日本最古の2大歴史書

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「日本最古の歴史書って、古事記(こじき)でしたっけ?それとも日本書紀(にほんしょき)?」――学校で習ったはずなのに、いざ問われると答えに詰まる人は多いはず。じつはこの2冊、生まれた年はたった8年違い。古事記が712年、日本書紀が720年。同じ天武天皇(てんむてんのう)の発案で動き出した、いわば“双子の歴史書”なんです。でも、中身を開くとびっくり。最初に登場する神様も違えば、文体も読者層も違う。今回はこの似て非なる2大歴史書の違いを、ガッツリ整理していきます。

編纂年と背景

まずは年表でガツンと押さえましょう。古事記は712年(和銅5年)、日本書紀は720年(養老4年)に完成しました。発案者はどちらも同じ、天武天皇(在位673〜686)。672年の壬申の乱(じんしんのらん)で勝利して即位したこの天皇、自分の正当性を裏付けるためにも「ちゃんとした国の歴史書、作ろう」と動き出します。

ところが天武天皇は完成を見ずに崩御。そのプロジェクトを引き継いだのが、孫の元明天皇(げんめいてんのう)と元正天皇(げんしょうてんのう)です。元明天皇の命で古事記が、元正天皇の代で日本書紀が完成しました。つまり「天武天皇が蒔いた種を、孫世代が刈り取った」という構図。歴史書って、世代をまたぐ大事業なんですね。

古事記と日本書紀の違い
田中本 日本書紀(巻第十)・奈良国立博物館蔵 国宝・パブリックドメイン

古事記の特徴

古事記の編纂者は太安万侶(おおのやすまろ)。彼が文字に起こす前に、もう一人の重要人物が登場します。それが稗田阿礼(ひえだのあれ)。記憶力がバケモノ級で、一度聞いた漢字テキストは音読でスラスラ言えたという伝説の舎人(とねり)です。

天武天皇は阿礼に『帝皇日継(ていおうのひつぎ)』『先代旧辞(せんだいくじ)』を暗唱させたものの、完成前に崩御。後年、元明天皇が「阿礼が死んだら全部失われる!」と慌てて、太安万侶に書き起こさせたのが古事記。口承を書き留めた“録音テープの文字起こし”みたいなものなんです。

構成は上中下の3巻。上巻が神話、中巻が初代神武天皇から応神天皇まで、下巻が仁徳天皇から推古天皇まで。文字は漢字を使いますが、日本語の音を漢字で当てる万葉仮名(まんようがな)を多用していて、当時の発音まで再現できる仕掛けになっています。読者層は国内向け。天皇家の物語を国の中で共有するための本、というのが古事記の立ち位置です。

日本書紀の特徴

一方の日本書紀は、天武天皇の皇子・舎人親王(とねりしんのう)を総裁として、複数の編纂チームで作られました。太安万侶もメンバーに名を連ねています。完成は720年、元正天皇に献上されました。

こちらは全30巻+系図1巻という超大作。文体はバリバリの漢文体で、当時の国際語=中国語スタイルで書かれています。なぜか。それは対外向け、つまり東アジア(特に唐=中国)に「日本にもちゃんと正史がありますよ」と見せるため。古事記が“内輪向けの神話集”なら、日本書紀は“外交カードとしての公式記録”という性格が強いんです。

そしてこの日本書紀は、後の時代に編纂された『続日本紀』『日本後紀』など6つの正史「六国史(りっこくし)」の第1番目。つまり日本初の勅撰(ちょくせん)正史です。格式の高さがケタ違いなんですね。

最初の神様が違う

2冊を読み比べると、いきなり面食らうのが最初に登場する神様の違いです。

古事記の冒頭、ドーンと現れるのは天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)。高天原(たかまがはら)のど真ん中にいる神様、という意味。続いて高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)と続き、この3柱が「造化三神(ぞうかさんしん)」と呼ばれます。

ところが日本書紀の正伝(本文)を開くと、最初に登場するのは国常立尊(くにのとこたちのみこと)。「大地が立ち上がる神」という意味で、いきなり地上の話から始まるんです。天之御中主神は、日本書紀では「一書(あるふみ)」の中で“ちなみにこういう伝承もあります”という扱い。あの最高神クラスがサブ扱いって、けっこう衝撃ですよね。

神話の語り口が違う

この“最初の神様問題”を解く鍵が、両書の語り口の違いです。

古事記はシングルストーリー。一本筋の通った物語として、神々の系譜を一気に語ります。読み物として実にスムーズ。

対して日本書紀は「一書曰く(あるふみにいわく)」という決まり文句で、本文のあとに異伝(別バージョン)をズラズラ並べる方式。神話部分だけで複数の説を併記しています。これは「正史としては諸説ある中から本文を立てたが、ほかの伝承もちゃんと残しておく」というアカデミックな姿勢。古事記が小説なら、日本書紀は脚注付きの研究書――そんなイメージがしっくりきます。

現存する写本

気になるのが「で、原本はどこにあるの?」という話。残念ながら古事記も日本書紀も、原本は現存しません。残っているのは、ぜんぶ後世の写本(コピー)です。

古事記の最古の写本は「真福寺本(しんぷくじぼん)」。南北朝時代の1371〜1372年、名古屋の真福寺の僧・賢瑜(けんゆ)が書き写したもので、上中下3巻が揃った最古の完本。1905年(明治38年)に国宝指定されました。現在は東京国立博物館に寄託されています。

日本書紀の写本はさらにバラエティ豊か。「田中本(たなかぼん)」は9世紀(平安時代初期)の書写で、巻第十のみ現存する国宝。「岩崎本(いわさきぼん)」は10〜11世紀書写の巻第二十二・二十四で、これも国宝。「卜部兼方本(うらべかねかたぼん)」は1286年(弘安9年)に卜部兼方が写した神代紀の写本で、こちらも国宝指定。3本まとめて国宝というのが、いかに大切に守られてきたかを物語っています。

江戸時代の本居宣長の再発見

古事記が「日本の宝」として再評価される決定打となったのが、江戸時代中期の国学者本居宣長(もとおりのりなが、1730〜1801)の登場です。

伊勢国松阪(現・三重県松阪市)の医師でもあった宣長は、師・賀茂真淵(かものまぶち)から「古事記を読み解け」と託され、ライフワークとして取り組みます。完成したのが全44巻の大注釈書『古事記伝』。1764年に起稿し、脱稿が1798年。かかった年月、なんと35年。69歳になってようやく完成したというから、執念のレベルが違います。

それまで難解で「読めない本」とされていた古事記は、宣長の解読によって一気に身近な古典に。「国学」と呼ばれる学問の柱になり、明治以降の神道復興や日本文化研究の出発点となりました。日本書紀のほうが格式高い正史なのに、現代に至っても古事記の人気が根強いのは、宣長の功績が大きいんです。

現代での扱い

では現代では、この2冊どんな立ち位置でしょう?

教科書では「古事記・日本書紀」とセットで紹介され、奈良時代の歴史書として中学・高校で必ず登場します。神道の世界では、神々の名前や神話の典拠としてどちらも参照されますが、神社で語られるエピソードは古事記ベースのことが多め。物語としての読みやすさが理由です。

歴史研究では、両方を突き合わせて読むのが基本スタイル。古事記の単一ストーリーと日本書紀の複数説を比較すると、当時どんな伝承が並立していたのかが立体的に見えてくるからです。「古事記派 vs 日本書紀派」ではなく、「両方読んで初めて見えてくる」のが日本神話の面白さ。8年違いで生まれた双子の歴史書は、今もタッグを組んで日本の物語を語り続けています。

関連神社・歴史書ゆかりの地|古事記・日本書紀を生んだ場所

古事記・日本書紀は神社というより「歴史書」そのものです。ここでは、編纂に関わった人物ゆかりの神社や、両書の写本・研究で重要な役割を果たした「歴史書ゆかりの地」を紹介します。

主祭神として祀る神社(古事記編纂者ゆかり)

  • 多坐弥志理都比古神社(おおにいますみしりつひこじんじゃ/通称・多神社)/奈良県磯城郡田原本町多
    古事記を編纂した太安万侶(おおのやすまろ)を輩出した多氏の祖神を祀る神社。安万侶自身も祀られており、多神社資料館には御神像が安置されています。
  • 太安万侶の墓/奈良県奈良市此瀬町
    1979年に発見された太安万侶の墓誌(国宝)が出土した地。古事記編纂者の実在を証明した史跡。

一緒に祀られる関連神社・ゆかりの地

  • 稗田阿礼(ひえだのあれ)ゆかりの地/奈良県大和郡山市稗田町
    古事記を「誦習(暗唱)」した稗田阿礼の出身地と伝わる集落。賣太神社(めたじんじゃ)では稗田阿礼が主斎神として祀られており、「語り部の祖神」として崇敬されています。
  • 本居宣長記念館・本居宣長旧宅/三重県松阪市
    江戸時代に古事記を再発見し『古事記伝』を著した本居宣長(もとおりのりなが)の研究拠点。古事記研究を志す人の聖地。

全国の関連神社・歴史書ゆかりの地(地域別)

古事記・日本書紀ゆかりの神社・聖地を地域別にご紹介します。

関東:日本書紀の編者・舎人親王ゆかりの寺社

中部:富士山本宮浅間大社・三嶋大社(静岡県)など古事記登場神を祀る神社

近畿:多神社(奈良県磯城郡田原本町・古事記編者の太安万侶を祀る)、賣太神社(奈良県大和郡山市・稗田阿礼を祀る)、本居宣長旧宅(三重県松阪市・古事記伝の研究地)

関連記事

  • 古事記の最初の神「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)」
  • 日本書紀の最初の神「国常立尊(くにのとこたちのみこと)」
  • 日本神話の神様一覧と相関図

参考

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